1.誰にでも「考え方のクセ」がある
私たちは日々、さまざまな出来事に出会いながら生きています。
たとえば、誰かに声をかけられた、仕事で失敗した、SNSで気になる投稿を見た――
そんなとき、私たちの心の中には自然と「何らかの考え」が生まれます。
ただし、このとき浮かぶ「考え」は人それぞれ異なります。
同じ出来事を経験しても、人によって受け取り方や解釈の仕方が違うのです。
それはなぜでしょうか?
実は私たちには誰しも、物事を捉えるときに無意識に働く“偏った思考パターン”があるのです。
これが「考え方のクセ(自動思考)」と呼ばれるものです。
2.自分の「クセ」に気づくことが第一歩
この“考え方のクセ”を柔らかくしていくには、まず自分のクセに気づくことがとても大切です。
どんな場面で、どんな考えが浮かんでいるのか――
少し意識して、自分の心の動きを観察してみましょう。
前提:「考え方のクセ」があること自体は悪いことではない
自動思考のうち、物事の捉え方や解釈に偏りがあるものは「認知の歪み」・「認知の偏り」などといわれます。
(この場合の「認知」とは、「考え・思考」を意味します。)
「歪み」や「偏り」という言葉を聞くと、なんだか“直さなければならないもの”のように感じてしまうかもしれません。
しかし、重要なこととして、偏りがあること自体が悪いわけではありません。
むしろ、それが自分を守ったり、役に立っている場面も多いのです。
たとえば――
誰かが怒っていたとき、「自分が何か悪いことをしたのかも」とすぐ自分のせいにしてしまうクセがある人がいるかもしれません。
でもそのおかげで、他人に気を配り、円滑な人間関係を築けていることもあるのです。
また、「時間は守るべき」「こうあるべき」といった“べき思考”を持つ人は、常識的で道徳的な行動ができるという強みを持っているかもしれません。
大切なのは、「その考え方が、今の自分にとって役に立っているか?」を見つめ直すこと。
もしも、そのクセがポジティブに働いているのであれば、無理に手放す必要はありません。
12個の「認知の歪み」チェックリスト
私たちの思考には、次のような“12の思考の誤り(認知の歪み)”があるといわれています。
あなた自身に当てはまるものがないか、チェックしてみましょう。
全か無か思考
「白黒思考」「二分割思考」などとも呼ばれる。
状況を連続体ではなく、「成功/失敗」「善人/悪人」のような、2つの極端なカテゴリーでとらえること。
<例>
・100点をとれなければ、すべて「失敗」!
・ちょっとでも欠点があれば、「悪い人」!

破局視
「運命の先読み」とも呼ばれる。
他の可能性、とくに現実的にありそうな可能性を考慮せず、未来を否定的に予言すること。
<例>
・今後、私にとって物事がうまくいくことは二度とないだろう・・

肯定的側面の否定や割引き
肯定的な自分の経験、功績、長所などを過度に無視するか、割り引いて考える。
<例>
・計画は成功したが、それは自分が有能だからではない!
単に運が良かっただけ。

感情的理由づけ
自分がそう<感じる>(そう信じている)から、それが事実に違いないと思い込む。
そして、それに反する根拠を無視するか、低く見積もる。
<例>
・現実には仕事はうまくいっているのに、「自分は失敗者」と思い込む

レッテル貼り
より合理的な根拠を考えずに、自分や他者に対して固定的で包括的なレッテルを貼り、否定的な結論を出す。
<例>
・私は「悪人」だ!
・彼は「負け犬」だ!

拡大視/縮小視
自分自身・他者・状況を評価する際に、マイナス面を過度に重視し、プラスの面を過度に軽視する。
<例>
・仕事で成果を挙げた→「大したことない」
・些細なミスを犯した→「大変なことをしてしまった!」

心のフィルター
全体像を見るかわりに、一部の合的な要素だけに過度に着目する。
<例>
・ポジティブな評価はまったく響かず、ネガティブな評価だけ印象に残っている

読心術
他のより現実的な可能性を考慮せず、他者が考えている内容を、自分がわかっていると思い込む
<例>
・実際に何か言われたわけではないが、「彼は私を見下しているに違いない!」と思い込む

過度の一般化
現状をはるかに超えた。大雑把で否定的な結論を出す。
<例>
・たまたま一科目、テストの点が低かったことを、「自分には勉強の才能がない」と解釈する

個人化
他人の否定的な振る舞いを、他のありそうな見方を考慮せずに、自分のせいだと思い込む。
<例>
・怒っている人を見ると、「自分が何かしてしまったせいだ!」と思う

「ねばならない」「べき」思考
「命令型思考」とも呼ばれる。
自分や他人の振る舞い方に厳密で、固定的な理想を要求する。
そして、それが実現しないことを最悪視する。
<例>
・「時間は守るべき!」
・「計画通りに進めねばならない!」

トンネル視
状況に対して否定的な側面しか見ない。
<例>
・計画を実行してみて、うまくいっている部分もあるが、うまくいってない部分ばかり見えてしまう

(参考:「認知行動療法実践ガイド:基礎から応用まで 第2版」)
3.考え方のクセを柔らかくするワーク
こうした考え方のクセは、決して「おかしな人のもの」ではありません。
誰しも、考え方のクセ(=自動思考)を持っているのです。
まずは、自分のクセに気づくことから始めてみませんか?
「自分にはどんなクセがあるんだろう?」と、日常の中で自分の思考を観察してみましょう。
特に、イラっとしたとき・落ち込んだとき・不安になったときなど、ネガティブな感情が出てきた時は歪みが出やすい瞬間です。
具体例
- 友達から返信がないとき →「もう嫌われたに違いない」(破局視)
- 会議で発言しなかったとき →「やっぱり自分はダメな人間だった」(全か無か思考、感情的理由づけ)
- 仕事で手を抜いてしまった時 →「仕事は一所懸命やるべきなのに、サボってしまった」(「ねばならない」「べき」思考)
では、実際に自分の考え方のクセに気づいたとき、どうすればいいのでしょう?
1つの方法として、以下の「認知の歪みを見直すワーク」を試してみてください。
認知の歪みを見直すワーク
ここで、試しに認知の歪みを見直すためのワークをやってみましょう!
ワークは大きく3ステップあります。
STEP1:自分の考えや気持ちを観察する。
まず、以下の①~③を紙やスマホで書き出してみてください。
- 起こった出来事
(例)上司に「この資料、もっと工夫して」と言われた - その時の自動思考(瞬間的な考え)
(例)「やっぱり自分は仕事ができない人間だ」 - そのときの感情と、感情の強さ(0〜100%)
(例)落ち込み(80%)、恥ずかしさ(60%)

STEP2:事実と比較する
続いて、自動思考(「自分は仕事ができない人間だ」)について、以下の2つを書き出してみます。
- 自動思考を、裏付ける事実
(例)
・以前も資料の修正を求められたことがある - 自動思考に、反する事実
(例)
・過去に資料を褒められたこともある。
・自分だけでなく、他の人もよく修正を求められている。
・上司は具体的なアドバイスをくれた(改善を期待されている)

STEP3:新たな見方(適応思考)を考える。
- STEP2の事実を考えた結果、浮かんだ新たな考え(適応思考)
(例)完璧ではなかったけど、改善点をもらえたから、成長のチャンスかも - 適応思考が浮かんだ時に、感じる感情
(例)前向きさ(60%)、落ち込み(30%)

ワークを通して、ネガティブな感情が減り、ポジティブな感情が増えていれば、成功です。
例えば例では、元々の感情が【落ち込み(80%)、恥ずかしさ(60%)】でしたが、ワーク後は【前向きさ(60%)、落ち込み(30%)】となっています。
ワークは例なので、うまくいっているケースです。
現実的には、なかなかすぐにうまくはいかないこともあるでしょう。
考え方のクセを柔らかくするのは、筋トレのようなもので、地道に考え方を見直すことにコツコツ取り組んでいく必要があります。
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